彼に会った。
久しぶりに、連絡を受けとった。
正直なところ、生きているのかさえ知りたくない気分だった。元気なのか確認するのも、確認が取れないのも嫌だった。
私が出来ることは無い。見守ることさえ出来ない。徐々に離れていくのを止めることは出来なかったのだし。
緩やかに時は流れる。
少なくとも彼の上では、そうなんだと思った。
忘れないで居てくれたことが嬉しかった。まあ忘れるほうが難しいこともあるんだ、と言っていた。彼と私は、何者なのかという問いを濁したまま5年の月日が経った。そんなつもりで、会わないだとか話があるとかそういうわけではないと言う。そんなつもり、って何だろう。私には関係ないことだった。私は特に何のつもりも無い。

真夜中に食事に行く。
そんな時間に大しておいしいものが食べられると言うわけではなかったが、一緒に食べられると言う幸福感がかつてはちゃんとあったことを思い出した。というのも、私は家で家族と食卓を囲むということはしないからだ。最近は、ごく稀に友人と機会が持てたときだけで、飲み会のような席は遠慮していたし、正面に一番見慣れた顔があると言うと言うことが不思議でさえあった。

ぽつぽつと言葉を交わして、一時間くらいで別れた。
あまり長い時間顔を合わせて居られるようではなかった。何だか気恥ずかしいし、言葉が思いつかないと言っていた。

私はなんとなく、隣の席のおじいさんをずっと見ていた。コーヒーとマフィンが二つ。薄暗い照明の下で難しい本を読んでいた。漢文調の和文の様な、古い言葉。日本人が漢文のつもりで書いたようなもの。私はそのおじいさんに向き合って座っているような気持ちで、彼の前に居た。つまり、息苦しくも無ければ、興奮も無い、穏やかで揺らぎの目立たない気持ちになった。

彼は自分には意気地が無いと言い、私はそうだねと言って笑った。
私のほうはと言えば、自分の勉強のことや学校のこと、沖縄に行きたいといった誰にでも話すことを適当に言いたいだけ話した。

私は少しだけ眠って、朝一のゼミに出た。
胃がもたれても不快な気分にはならなかった。

偽善事業

2007年1月30日 俗物
励ましの言葉を一夜中考え続けて
すこし声を漏らす
言葉に成りきらないうちに
上の空を舞う音
煙たがられて
少し距離を取る

励ましの言葉が自分の首を絞めて
偽善者だと思い知る

自分自身も救えないのに
あなたを救えるわけが無い

あなたの虚ろな目を見て押し黙る
言葉は無力で拙い

ひとつだけ確かなことは、それでもここは本当の地獄ではないということ
日常を見失う恐怖に耐えられなくなったわたしたち
それだけで、全てから目を逸らしたわたしたち
さて、愛は食欲と同じだ、と誰が言ったか知りませんが。

愛を感じて血糖値があがるだとかは無いだろう。むしろ逆ですね。

私は日々忙しく、土日も朝夕もなく研究室に居たり、時にはバイトしてたりしていますし、実家住まいとはいえ居候の身分です。ですから、自分のことだけではなく家事も溜まるし、犬もほっときゃ死ぬので色々やることはあります。それ自体はどうもこうも無いけれど、最近詰め込みすぎて少々疲れ気味なのは確か。

ごくたまに、彼に会います。無理に予定を空けるときもある。会えばご飯くらい作ってあげます。
で、やはり、折に触れて苛っとします。
何でしょうね…生活が違いすぎるからかもしれないし、単に慣れなのかもしれないし、疲れがでて甘えてしまうからかもしれません。
傷つけるようなことをこれ以上言ってはいけない、と思うけれど…ふと、余計なことを言ってしまう。
一言多いタイプのひとは一度は昔仲間はずれにされたことがあるっていうし。私は人付き合い、基本的に下手なので経験ありますが。

で、「愛って食べれるの?」になる訳です。

じゃあ、私はお金のために生きてるのかといえば違います。
私だって、将来何の役にも立たない研究というお遊びに時間を費やしているだけなのですから。私も彼も、社会的なお荷物であることは変わらないのです。
二人の間にあるのは何なのでしょう。

愛でも食料でもお金でもないことだけは確か。

生き物好き

2006年10月21日 俗物
生き物好き
誕生日プレゼントにピンポンパールを入れる水槽を買うことにしました。この前一緒に出かけたとき、二人でこの金魚に惚れたのでした。生き物が好きなのはもともとの共通項であります。

ちょっとまえ、すごくストレートに「ゲームソフトが欲しい」とか抜かしやがったので即却下してやりました。そんなもんは自分で買え、というわけで。今まで、4年の付き合いが在りますけど、ゲームマニアだからってゲーム関連のものを買ったことはありません。
あなたが一緒にスタバでお茶でもしてくれたらね、と言ってやりました。諦めた顔をしていました。彼はお洒落そうなスポットは全部苦手です。コーヒーも苦手です。お腹が痛くなるらしい。大体において嗜好が子供っぽい。…まあ、趣味から見てもそのまんま。
スタバはお友達と行けば良いわけで、不便はしていません。
ただの脅し文句として良く言います。

そのほかには…
「某ネズミーランドに連れてけ」とか。これは私も嫌いなのでほんとに冗談。
「オペラ観に行こう」クラスだと瀕死ですねw 身震いしてます。

水槽、本当は自分の家に置きたくて自分で水棲生物飼ってみたいのですが、なにぶん実家暮らしで母が嫌がるもので。
母の壁、厚くて高し。
というわけで自分にも得になるものをあげましょう(セコイ)

お月見

2006年10月7日 俗物
まっすぐ、お月様に向かって顔を向けて、まっすぐ歩く。
夜の一人歩きはもう肌寒い。

彼の家へ歩いて向かう。
今までは外に出るのも嫌みたいで、迎えに来ることを申し出ることもなかった。涼しくなって、気が変わったのかもしれない。

途中から二人で歩いた。
私は空を仰ぎ見て、彼はまっすぐ行く末を見つめていた。

いつもお互い噛み合わないのに、肩を並べて歩けることがある種の驚異だ。いつの間にか前を行く、彼の背中をいつも見ている。
同じ歩幅では歩けない。
いずれ気づかぬうちに、ずっと先へ行ってしまうのだろう。
彼はその手を差し出すことはない。
それに私は捕まえられないだろう。

彼は一度も月を見なかった。
私は一度も彼の顔を見なかった。
グリーンカレー、たまに無性に食べたくなる。
という訳で缶詰購入。
本当は手作りしたいけれど、作りなれてないから感覚もないし、調味料が足りない。

でも、普通に美味しかった。勿論、具を足したり多少加工はしたが。

彼の隣でゲームの様子を見ながら食す。
彼はカレーを食べつつ、左手でたまに必殺技を放つ。

お行儀悪い、とか怒ってみたいが、相手は大人なのでわざわざそんなこと言う必要性が見当たらなかった。
ながら族は自分は好まないけど。テレビ見ながら食事するなら、ゲームしながらでも、新聞読みながらでも同じレベルな気がするので。
本当はゆっくり会話でも楽しむべきだと思いますが。
何話せばいいか、ね。疑問。
幼い頃実家では無言でテレビも無しで、黙々と食べていた気がする。

どうでもいいが、彼は自分のことを女だと偽ってゲームをしている。本物の女の目からすれば、女の子らしからぬ発言が気になってしょうがない。女の子社会では絶対そんなこといわない、とか、いちいち思う。しかし、リーダーシップもあり、ゲームに関する知識も豊富で、言葉は丁寧。かつ英語が使えて、コミュニケーション能力も高いので、人望は厚い。今のところばれていない。見知らぬ外国人にもよく贈り物をされている。そんなにモテるなら、女としてリアルでもやっていけるんじゃないか、とも思う位。

でもね、本当に女の子だったらそんなにゲームやってられないと思う。寝ないと肌荒れるし、お風呂だって5分とかで済ませるわけにはいかない日もあると思うの。

まあ、いいけどね。
私は隣でDSしてました。大抵は本読むか、一緒に居ても一人遊び。しばらく忙しくなるから時間とって会いに行った割には、いつもと同じ。あはは。
彼は日が暮れる頃から日がまた昇る頃まで同じ動作(私にはそう見える)を続けていたらしい。冒険者としてレベルを上げたり、スキルをあげたり、人の頼みに親切に手助けしたり。
彼に言わせると色々あるらしい。
私にはただの作業にしか見えない。

その後、少し眠って、9時間拘束のアルバイトに出かけた。
お互いバイト終了後に一緒にご飯を食べる約束をしていたので、落ち合う。ご飯の最中は「もう眠い、もう疲れた」と嘆いていた。

食事が終わると同時に、ゲーム機が起動される。
開始十分後、「眠い…今日はもう寝よう」と一人言をつぶやく。

彼は一人だと果物は全く食べない。野菜は少し食べるらしいが。
私が訪れた際はなるべくフルーツを添えるようにしている。単に私が好きなだけ、というのもあるが、彼は口内炎が痛いなどとよく言っているからついた習慣でもある。

果物を食べると、甘いもので少し疲れが癒されたようだ。
そこで、「よし、アイスも食べよう。そうすればもっと頑張れる気がする。」と言い出した。

私は本を読んでいたので関せず。
彼は大好物のアイスを持ち出し、意気揚々と冒険の旅に出た。

私は本を読んだり、なにやらしているうちに眠くなり、先に寝てしまった。
彼は結局、朝日が昇るまで、冒険をしていた。
ふと目が醒めてみれば、パッドを握ったままの同じ体勢だった。

仮想世界の冒険者にも時間の流れがあって、昼も夜も巡っているが、必ず家に帰り眠らなくては生きていけないということは無い。
仮想世界の中の一週間、ぶっ続けで同じことをしても、そのせいでどんどん消耗して死ぬ、ということは無い。食事も必要が無ければしなくて良い。お金は現実世界以上に稼ぐ必要があるらしいが。

仮想世界の中の自分はどれだけ好きに生きても、苦しみは無い。
彼は現実の肉体に囚われているので、どんどん消耗していく。衰弱していく。
差し込む光の中に、同じ音楽の繰り返しと反射する画面、微かに動き続ける目玉、指。

「もう限界だ…」
といって、仲間と別れ、彼はゲーム機の電源を切った。

次に目覚めた時、一緒に居た仲間は同じ場所でまだ冒険をしていた。自分はここまでのレベルには至ってないから大丈夫です、とでもいいたげに、私を見つめ返していた。
今日は一緒に出かける約束をしていた。
昨日、彼は「明日は駅に集合ね」といった。私は眠れなくて朝の七時まで起きていたが、兎に角間に合うように起きた。

しかし、一抹の不安はあった。
何故なら、昨日彼の家を出るとき、彼は私の存在を完全に失念していたからだ。

「帰るね。」
「…」
「明日ね。」
「ああ、うん。」
「おやすみ。」
「…ああ、もうみんな突入してるし。待って〜」
冒険者たちは宝探しのイベントに旅立っている最中。明日の約束を私と喋っているあいだに彼は出遅れたのだ。

私は玄関に立った。

「ほんとに帰るよ。」
「…」
彼はいつものように振り向かない。
「…」
私は家を出た。出て行ったことに気づかなかったのだろう、以降連絡も入らなかったので、完全に忘れているな…、万が一覚えてても起きられないんだろうな…と予想。
見事に的中。
私はとりあえず、一時間だけ駅で待った。雷が鳴っているので帰った。
彼からのメール 『ごめんなさい もうころしてくれ』
死に至らしめる魔法の呪文を私は知らない。
だって、彼の世界に共に住める冒険者ではないから。
気に食わない彼の生活態度を観察する。
彼は人生に躓いた。
以後、仮想世界へ逃避行を続けている。
そんな彼を、私は毎日見つめている。

彼は今日も仮想世界へ冒険に出ている。一日の殆どをそこで過ごしている。
一緒にゴハンを食べようか、と誘うも、気の無い返事。
「ハンバーガ、食べたい」と仰りつつ、訪問許可が下りない。何故なら昨日の夜、私にひどく怒られたからだ。いじけている。もう怒らないよ、とメールをすると、「夕食は焼き鳥丼かな…」との返事。私はバイト終了後に彼宅へ向かう。
冒険は仲間と共に珍宝を探す旅の真っ最中。しかし訪れてみるとご飯を炊き味噌汁を途中まで作りかけていた。彼はゲームをしながら家事を同時平行で行うのが上手だ(ほめてない)。私は黙って食事の続きを作り始める。メニューは、焼き鳥丼・ポテトのチーズ焼き・お味噌汁。
しばらくすると「ああ、どうしよう」と焦り始める。「ごはんできたよ」と言うと悲壮な表情でこちらをチラ見している。
私は色んなことを諦めてきたので、もう動じない。「ゲームしながら食べていいよ」と言って片手で食べれるようにスプーンを渡すと、一層悲壮な目で、それではせっかく来てくれたのに申し訳ないと呟く。といってもオンラインゲームは一人でプレイ出来ない。同じ時間を共有している仲間が居る。彼には私用でそれを断ち切ることは出来ない。彼はパッドとキーボードを膝に抱え、スプーンを片手にディスプレイを見つめている。私はその奇妙な食事風景を眺めながらもそもそとご飯を食べた。
そして、ゲーム内の社会ではとても貴重とされているアイテムを彼は仲間を差し置いて自分だけ、この食事中に手に入れた。申し訳なさそうな情けないような嬉しいような複雑な顔をしていた。あまりの場面を目の当たりにした私は思わず味噌汁をこぼした。彼は綺麗好きで、部屋を汚すととても怒る。しかし、今日は怒らなかった。
渦

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