黒猫の足跡

2007年2月22日 神経細胞
まだまぶたの奥に紗幕がかかっていた、子供時代の終わりごろ。
彼女に出会った。
私が抱えいる矛先の無い悲しみを見て、彼女は泣いた。私が一頻り泣いて、気が済んで、落ち着きを取り戻した後に、彼女が音も立てずに泣く。私はしゃべりすぎだったし、彼女はちっとも言葉を扱わなかった。それが募ると険悪になる。でもひと時も離れようとしなかった。ぴったりと肩を寄せ合って、同じリズムで呼吸をしていた。よく二人で黒猫の背中を撫ぜた。
だから、長くは続かない。
そうやって同じことを繰り返すうちに、予想を裏切らず、臨界点に達して。
二人は弾け飛ぶように、離れた。女の子同士の友人関係という枠組みでは捉えきれない何かがあった。後にも先にも、ほかの誰であっても、あの状態を再現することは出来ないだろう。あの時の、あの場所の自分はもう居ない。

引きちぎっておきながら、それでも彼女を命の限り見守ると誓った。単純に、余計なおせっかい。よっぽどのことが無い限り、彼女の世界にもう割り入ることは、必要ないしするまいと思っていた。彼女の人生自体のハッピーエンドに私は関われない。だとしても、それ以外の結末を許せないのだ。どうにか視界には入るぎりぎりのところに腰を落ち着けた。猫を抱えて座り込む。何かあれば、猛烈に走ってみせる、という気持ちで。

ふと、気づくと転々と続く黒猫の足跡。あたりに姿は無い。挨拶もせずに去った後なのだ。
限定条件の多い予感は当たる。
彼女がパノラマの向こうで倒れた。
本当に言葉通り、猛烈に走った。全身の皮膚がざわついて、血液が炭酸水のように騒がしくなった。

私は間に合った。だから、彼女は砕けなかった。
多少なら守ることは出来る。
でも、結局彼女が一生抱えることになる、重い傷から救い出すことは出来ない。どこまでも無力であることを、思い知らされている。
それは当然のことだ、と理解できる。だとしても自分が情けない。

黒猫はちっとも戻らない。

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渦

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