彼は日が暮れる頃から日がまた昇る頃まで同じ動作(私にはそう見える)を続けていたらしい。冒険者としてレベルを上げたり、スキルをあげたり、人の頼みに親切に手助けしたり。
彼に言わせると色々あるらしい。
私にはただの作業にしか見えない。

その後、少し眠って、9時間拘束のアルバイトに出かけた。
お互いバイト終了後に一緒にご飯を食べる約束をしていたので、落ち合う。ご飯の最中は「もう眠い、もう疲れた」と嘆いていた。

食事が終わると同時に、ゲーム機が起動される。
開始十分後、「眠い…今日はもう寝よう」と一人言をつぶやく。

彼は一人だと果物は全く食べない。野菜は少し食べるらしいが。
私が訪れた際はなるべくフルーツを添えるようにしている。単に私が好きなだけ、というのもあるが、彼は口内炎が痛いなどとよく言っているからついた習慣でもある。

果物を食べると、甘いもので少し疲れが癒されたようだ。
そこで、「よし、アイスも食べよう。そうすればもっと頑張れる気がする。」と言い出した。

私は本を読んでいたので関せず。
彼は大好物のアイスを持ち出し、意気揚々と冒険の旅に出た。

私は本を読んだり、なにやらしているうちに眠くなり、先に寝てしまった。
彼は結局、朝日が昇るまで、冒険をしていた。
ふと目が醒めてみれば、パッドを握ったままの同じ体勢だった。

仮想世界の冒険者にも時間の流れがあって、昼も夜も巡っているが、必ず家に帰り眠らなくては生きていけないということは無い。
仮想世界の中の一週間、ぶっ続けで同じことをしても、そのせいでどんどん消耗して死ぬ、ということは無い。食事も必要が無ければしなくて良い。お金は現実世界以上に稼ぐ必要があるらしいが。

仮想世界の中の自分はどれだけ好きに生きても、苦しみは無い。
彼は現実の肉体に囚われているので、どんどん消耗していく。衰弱していく。
差し込む光の中に、同じ音楽の繰り返しと反射する画面、微かに動き続ける目玉、指。

「もう限界だ…」
といって、仲間と別れ、彼はゲーム機の電源を切った。

次に目覚めた時、一緒に居た仲間は同じ場所でまだ冒険をしていた。自分はここまでのレベルには至ってないから大丈夫です、とでもいいたげに、私を見つめ返していた。

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渦

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