気に食わない彼の生活態度を観察する。
彼は人生に躓いた。
以後、仮想世界へ逃避行を続けている。
そんな彼を、私は毎日見つめている。

彼は今日も仮想世界へ冒険に出ている。一日の殆どをそこで過ごしている。
一緒にゴハンを食べようか、と誘うも、気の無い返事。
「ハンバーガ、食べたい」と仰りつつ、訪問許可が下りない。何故なら昨日の夜、私にひどく怒られたからだ。いじけている。もう怒らないよ、とメールをすると、「夕食は焼き鳥丼かな…」との返事。私はバイト終了後に彼宅へ向かう。
冒険は仲間と共に珍宝を探す旅の真っ最中。しかし訪れてみるとご飯を炊き味噌汁を途中まで作りかけていた。彼はゲームをしながら家事を同時平行で行うのが上手だ(ほめてない)。私は黙って食事の続きを作り始める。メニューは、焼き鳥丼・ポテトのチーズ焼き・お味噌汁。
しばらくすると「ああ、どうしよう」と焦り始める。「ごはんできたよ」と言うと悲壮な表情でこちらをチラ見している。
私は色んなことを諦めてきたので、もう動じない。「ゲームしながら食べていいよ」と言って片手で食べれるようにスプーンを渡すと、一層悲壮な目で、それではせっかく来てくれたのに申し訳ないと呟く。といってもオンラインゲームは一人でプレイ出来ない。同じ時間を共有している仲間が居る。彼には私用でそれを断ち切ることは出来ない。彼はパッドとキーボードを膝に抱え、スプーンを片手にディスプレイを見つめている。私はその奇妙な食事風景を眺めながらもそもそとご飯を食べた。
そして、ゲーム内の社会ではとても貴重とされているアイテムを彼は仲間を差し置いて自分だけ、この食事中に手に入れた。申し訳なさそうな情けないような嬉しいような複雑な顔をしていた。あまりの場面を目の当たりにした私は思わず味噌汁をこぼした。彼は綺麗好きで、部屋を汚すととても怒る。しかし、今日は怒らなかった。

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渦

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